この照らす日月の下は……
25
その少女が来たのは、キラが女装になれた頃だった。
「……お前は?」
キラの姿を見つけた彼女がそう問いかけてくる。
「僕は……」
「サハクの縁者よ。いずれ我らの手伝いをしてくれることになるだろうからの。こうして都合がつくときに手元に呼び寄せておるのだ」
キラが言葉を返すよりも先にギナがそう言い返した。
「ずいぶんと小さいな」
少女はキラの全身を確認するとつぶやくように言葉を発する。
確かに同年代のものに比べれば少し小さいかもしれない。だが、これから大きくなるのだ、とキラは信じていた。
それでも初対面の相手に面と向かって言われてしまえばショックを覚えないはずがない。
「カガリ……この子はお前と同い年だぞ」
ショックで固まっているキラを安心させるように髪をなでてくれながらギナがそう言う。
「嘘!」
「ついでに生まれ月も同じなはずだ。小さいのは、食べる量の違いであろうな」
誰もがお前のように大食らいではない、と彼は言い切る。
「私は普通だぞ!」
「それが許される立場だからの。宇宙では生鮮食品は入手しづらい。ここでもそうなのだから、月ではなおさらであろう」
宇宙ではまだ大規模な農場は存在していない。水や土地といった問題があるからだ。
土地はコロニーを作ればいいのだろうが、それをすべて畑にするよりも人を移住させてそこで新たな仕事をさせた方がいいと考えるものの方が多い。
プラントと地球連合の関係がぎくしゃくしているのはそのせいもあると言っていたのはアスランだっただろうか。
その時まで自分はそれを知らなかった。
「……それは……」
それは目の前の少女も同じだったらしい。
「その事実を知らぬものが多いのは事実よ。だが、お前が《アスハ》である以上、知らねばならぬ事だ」
他人に対する気遣いも、とギナは続けた。
「もっとも、今のお前に言ってもわからぬであろう」
自分も昔はそうだった、と彼は苦笑を浮かべる。
「だから、それに関しては追々自覚していけばよい。ただ、自分の言葉が他人を傷付けるかもしれぬ炉言うことだけは自覚しておけ」
良いな、と言うギナにカガリと呼ばれた少女は小さくうなずく。
「キラ。おぬしは居住区に戻っておれ」
少し騒がしくなるかもしれん、と付け加えられた。
「はい」
「何、少しの間よ。状況を確認してくるまでのことだ。我慢できるであろう?」
カナードもいるはずだ。ギナは優しい表情でそう告げる。
「そこにいるのは本当にサハクのギナ様か?」
嘘だろう、とカガリが叫ぶ。
「どういう意味じゃ?」
「ギナ様がそんな優しい表情をするはずがない!」
ギナは意地悪でいじめっ子ではないか、とカガリは続けた。
「……ギナ様はいつも優しいよ?」
自分にはそちらの方が信じられない、とキラは言う。
「よい子には優しくせねばならんからの」
ギナもそう言って微笑む。
「じゃ、私は悪い子なのか?」
カガリだけが納得できないようだ。
「少なくともよい子ではないの。他人の家を勝手にうろつくとは」
言葉とともにギナがカガリの襟首をつかむ。
「それに関しても話をせねばなるまい。と言うことで、行くぞ」
彼はそのまま移動をする。その背中を見送ってから、キラは反対側へと移動していった。